『手のひらへのキス』



2人で出掛けている私達。

その手はしっかりと繋がれていた。

あっ

私は思わず目に入った光景から顔をそらす。

不思議に思った彼が,その方向を向いたのが空気でわかった。



ー道の真ん中であんなに堂々と…すごいね



目に入ったのは男女のキスシーン。

女性の腕は男性の首に,男性の腕は女性の腰に回っていて,唇を離した若い2人は幸せそうに満面の笑みを互いに向けていた。

何か他人には分からない出来事があったのかもしれない。

返事が返ってこないことに疑問を抱いて,私は彼を見る。

すると彼はピタッと歩みを止めた。

そして繋いでいた私の右手を,自分の頬を包むようにして持ち上げる。



ーなっなに



私が堪えきれずに問いかければ,彼は私の手のひらにキスをした。



「俺もしたい……だめ?」



彼は瞳を潤ませて,首をかしげる。

それは私に垂れた犬耳すら錯覚させた。

うっと言葉に詰まっていると,彼は目を閉じてゆっくりと近づいてくる。

私は……


               ー『懇願』