『瞼へのキス』



ーコホッ

温かい部屋で,小さな音が響く。

私はすぐに反応して彼を見た。



ーまだ辛い?



呼吸の浅い彼を見て,私はその額に手を当てる。

熱は高いとは言えないが,少々。

冷たい水を飲んで,もう少し寝てもらおう。

そう思って,私は席を立とうとした。

すると,彼が弱々しく私の手を掴んで,自分の額に当てる。



「これ,結構気持ちい……から,行かないで」



行かないで,の方が大きいと感じるのは私の自惚れかな。

私は照れを隠しながら,静かにまた床に座る。

することもなくて,彼の寝ているベッドの端に額を乗せると,どこかふわふわした気持ちになった。

彼の匂いに,安心する。

ふわふわと意識をさまよって,ハッと頭をあげると,私は彼に手を握られていた。

繋がれた手を辿って目線を移すと,彼は上体を起こして柔らかく微笑んでいる。

その生暖かい目に,私は顔をそらした。



ーたっ…体調は?



誤魔化しに声をあげて,はたと本気で心配になる。

その移り変わりを目の前で見ていた彼は小さく笑って



「もう,大丈夫」



といった。

ありがとうと声をかけられて私が首を横に振ると,彼は私を隣に誘う。



「俺もさっき目が覚めたところだけど,1時間くらい寝てたんじゃない? そこに居たままだと足いたいでしょ?」



そんなに寝ていたのかと頭の隅で考えながら立ち上がると,彼の言う通り,思いの外足が痺れていた。



ーひゃっ!?



と体が前に傾いて,彼が慌てて受け止める。

そして私達は可笑しくなってくすくすと笑った。



「ほら,おいで?」



今度はバランスを崩さないようにと,彼が私の腰と手を支える。

ゆっくりと座ると,彼がふいに近づいた。

思わず肩をすくめて目を閉じると,瞼に温かい感触が。



「すきだよ」



目を開けた先に居たのは,熱の覚めた体で頬を染める,彼だった。


 ー『可愛い,愛おしいを越えた強い憧れ』