『頬へのキス』



ーあっ



なんとなく出掛けた休日の帰り道。

聞きなれた声に私は振り向いた。

私のところへパタパタと駆け寄ってくる彼は,私の,初めての彼氏。
だったりする。

忠犬よろしくやってくる彼は,その子犬っぽい性格からか,私と同い年であるにも関わらず年下と錯覚しそうになる。



ーあ,と……どうしたの?



私には休日に街中で彼氏とばったりあった時の会話など分からない。

何て言えばいいのか。
しかも目の前の彼は満面の笑み。



「えっとね…」



直後,ちゅっと可愛らしいリップ音が響いたかと思えば,彼はパッとはなれてまた笑う。

こんな不特定多数の人がいる場所で…!

私はきゅっと唇を噛んで頬に手を当てた。



「んふふっ見つけたらしたくなっちゃって!」



可愛く笑った彼はそう言うとまたパタパタと走り去っていった。

まるで嵐のよう。



ーえ…?



一瞬で過ぎ去った出来事に,私は呆然と立ち尽くした。

私は,自分のタイプは余裕があって,かつクールな人だと思って生きてきた。

好きな小説のヒーローや,好きなグループのの最推しは大体そんな感じだったから。

それなのに彼に恋をしたのはきっと,あぁいうところがあるから。

キスは,どこだろうと慣れない。



ーバカ…後でLINEで文句言ってやるんだから



私は彼とは反対の方向に走り出した。


             ー『親愛の情』