『お腹へのキス』



「あぁ~疲れた」



外から返ってきた彼は,私を見て来てたんだという顔をするとそう言って近づいてきた。

そしてベッドに座っていた私を道連れに,倒れこむ。



ーどこ行ってたの?



彼がここまで疲れるなんて,あまり考えられない。



「友達に誘われて遊んでたんだよ。ほら,前駅前で会ったやつ」



確かにテンションの高い人だったけど…



「おまけに体力もすることもえぐいんだよ。突然スポッ○ャに連れ込まれたかと思えばサッカー。やっと終わったかと思えば突然思い付いたみたいにスマホ弄ってこんどはシャトルラン。本当にふざけてる」



行き当たりばったりなやつなんだよほんと,と愚痴を漏らすけど,彼はどこか楽しそうだった。

きっとすごく仲がいいんだ。



「まぁ,全部勝ったけど」



最後に,彼はそう付け足す。

……私はなにも言ってないのに。

私はくすくすと笑う。

きっと彼が疲れてるのは彼のせいだね。

いっつも余裕そうな顔してるのに以外と負けず嫌いだから。

だからそのお友達もついつい振り回しちゃうんだろうな。



「はぁぁぁ。ほんと,癒して?」



彼は笑っている私にそう言うと,私のお腹に顔をうずめて,ちゅっと軽くキスをした。

私は彼の言葉を頭で反芻して,少し考える。



ーじゃあ,1時間だけ一緒に寝る? 私体温高いからいい抱き枕になると思うよ?



私が彼の背中をさすりながらそう口にすれば,彼はそうすると頷いて,布団に潜り込んだ。



「ほら,じゃあ早くおいで?」

ーうん



彼に誘われるまま横に並べば,ぎゅっと彼に包まれる。



「たまにはあいつもいいことするよね。ね,お願い。これからもたまにでいいからこうしてもいい?」



彼は私が断れないように,打算と本音の混ざった幸せそうな声を出す。



ーうん。いいよ



私も,こうされるの好き。

月が空に輝き出す頃,部屋には2人分の寝息がすっと響いた。

          
   ー『母性に惹かれる·癒しを求める』