『首や首筋へのキス』



ーガタッ

デートから帰るなり,彼に壁ドンをされる。

私はあちゃーと宙を見上げた。

帰り際,彼のトイレを待っている間にうっかりナンパされたことを怒っているのだ。

いや,それは断じて私のせいではないけれど。



「俺がいなくても,人のものってパッと見で分かるしるしがいるね」



その時の光景を思い浮かべていた私は,彼の言葉でふっと意識を戻す。

? とちゃんと聞いてなかった私が首を傾げると,彼は私の首筋に顔をうずめた。

直後チリっとした痛みが走って,私はまさかっと彼を押した。



ー……付けた?

「うん」

ー明日は服に合わせてポニーテールにしようと思ってたのに!

「うん。丁度いいね」

ー良くない!



プンスカと怒る私に,彼はにこにこと笑う。

とりつく島もないとはこのことだ。

さらに体勢を低く近づく彼に,私は彼の腕の下を潜って背を向けた。
が,結局手足の長い彼に止められる。

逃げようとした私の手を捕まえると,彼は私のお腹に手を回し,ぐっと引き寄せた。

前傾姿勢になり,私の長い髪ははらりと横に流れる。

露になった首に,彼は口付けた。



ー明日は朝から友達と遊ぶって言ってるでしょ! これ以上はだ…

「逃がさないよ…?」



私は彼の本気の妖しい声色を聞いて,ガクッと項垂れた。

力を抜いて,彼の腕にぶら下がるような形になる。



「ね?」



敢えて私に頷かせる彼を前に,私は小さく首を縦に振った。

あぁ,断れない自分が恨めしい。



        ー『執着心·性的な誘惑』