『背中へのキス』


「なぁ,そんなにつまんなかった?」



彼氏とのプール。

本当なら楽しくないはずがない。

それに,提案したのも私。

なのに私の気分は最悪。

私はふてくされて,上体だけくの字にベッドへ倒した。


ー……そんな事ないよ。



私は取り繕っているとも言えない嘘をつく。



「そんな顔して言われてもなんの信憑性もねぇんですけど」



めんどくさそうに言われて,それが私の心にグサッと来た。

……分かってるよ,彼のせいじゃないこと。

ただ,ずっと女の子の視線を独り占めして,少し目を離しただけで逆ナンされる彼が憎いだけ。
目を離すと言っても視線をずらしただけなのに,周りに私が彼女であると気付いてもらえない私の釣りあわなさが悲しいだけ。



「なぁ,なんか言えよ。なに? そんなに俺の事嫌いなわけ?」



刺々しいのに,どこか弱った彼の声。

彼は私の背中に口付けて,そのまま顔を置いてしゃがむ。



ーごめんね。違うの,ほんとはちょっと妬いちゃっただけなの

「妬く?」

ーすごくモテるから。私の彼氏なのに周りが気付いてくれないから……私よりも似合う女の子がいるんだよなって思ったら悲しくなって。



私が言うと,彼はククッと笑った。



「なんだ,そんなこと。俺にはあんたしかねぇよ」



笑われてしまったけど,その声があまりに嬉しそうで,私はなにも言えない。



「それくらいなら,俺もいつも思ってる。あんた自覚ないけどすぐ男に目つけられるから」

ーそんなこと…

「ほら,全然気付いてねぇもん。だから,俺があんたに惚れてる分だけ,もっと妬いて。もっと俺に甘えて。俺だけの表情,もっと見せて」



彼は,私の上体をくるっと変えて仰向けにすると,私に覆い被さった。



            ー『愛情の確認』