『鼻や鼻の頭へのキス』



「何か不安なことでもあるの?」



無意識に眉を下げて彼を見つめていた私。

私から言葉を引き出すように彼に尋ねられて,私はうつむいた。



ー友達が,すっごく仲の良かった彼氏と別れちゃったの



嫌いになった訳じゃないけど,別れてって言われたって。

ボロボロ泣いてて,私は何も言えなかった。

その子の彼氏とは1度も言葉を交わしたことはないけど,見かけた時はいつだって好きだって目で友達を見ていた。

なのにって口を開けたり閉じたりしながらかける言葉を探していたら,ふいに彼を連想してしまった。

彼はいつも優しい。

そう思ったら,余計に何も言えなくなって,結局私は友達になにもしてあげられなかった。

一緒に怒ることも,慰めることも,元気付けることも,何一つ。



ーいつか友達の彼氏みたいに,私に別れてって言う日が来るの?



どうしても不安になって,声が震える。

私が彼の瞳を見つめると,彼は嬉しいような困ったような表情を浮かべた。




「言わないよ,死んだ後だって。困ったな,そんなに離したくないと思ってくれてたなんて,嬉しいと思ってしまうから。本気で不安がってるのにね。でも,そんなに俺の好きは伝わってない?」




彼はどんな表情をすればいいのか分からないと言ったように,ころころと表情を変える。



ーそうじゃなくて……

「…? じゃあ何?」

ー大事にされてるのが分かるから,今が幸せだから不安になった。友達の彼氏もそうだったから。

「……今,幸せ?」

ーうん



私が素直に頷くと,彼は片手の甲を唇に当てた。

そして震えた声で



「も~,何でそんなに可愛いかな。こんなの俺から手放せるわけないじゃん」



と言うと,自分の鼻を私の鼻にすりっと寄せる。

くすぐったくて身をよじると,彼は私の肩を優しく掴んだ。

まるで引き留めるように。

そして今度は鼻の頭にちゅっとキスをする。



「心配しなくても,俺はずっと一緒にいるよ」



 ー『自分のそばに置いて大切にしたいという強い気持ち』