『おでこへのキス』



私は唇を引き絞って,もじもじとする。

今日は私の誕生日。

覚えていて,くれるかな?



ーあの…! 今日ね!



意を決して顔をあげると,優しげな彼の顔。

彼は私の彼氏。

普段はふわふわと優しげに見える彼だけど,2人きりになるとキス魔っぽいところがある。



「誕生日だよね? おめでとう。ちゃんと覚えてるよ,プレゼントも用意したんだ。せっかくだから夜渡すよ」



こういう嬉しい言葉をすらっと吐けるところが私の胸きゅんポイントの1つ。

私は頬を染めてうつむいた。



ーそれで,あのね……?



私本当はお願いがあるの。

形に残る物もいいけど……



「なに?」



彼は心なしか嬉しそうで,見透かされているのではないかと思う。



ーいつもしてもらってるけど,誕生日の今日もお祝いのキスしてほしいの



なんの意味があるのか自分でも分からないけど,朝起きて,してくれたらなって思い付いた。



「…いいよ」



待ってましたと言わんばかりに,彼は艶やかに目を細めると,私に影を落とす。

ーフッ



ーぅえ?

「あれ,がっかり?」

ーううん。そうじゃないけど



なんで



「おでこなんだろうって思った?」



ドキリ。

私はなんとなく恥ずかしくなって,指先を口元に当てる。



「今日は,誕生日だからね。ここが一番ふさわしいかなって」

ーそう,なんだ…?



ふさわしいってなんだろう。

良く分からないけど,彼のキスはいつだって優しい。

私はテンション高めに冷蔵庫へと向かった。

                
              ー『祝福。』