結局『手』だけは取られっぱなしだったけれど、お陰でラヴェルの素晴らしい『裏ワザ』は、随分自分のモノに出来た。

 操縦席に座ったあいつは、驚いたことにあたしを膝の上に乗せて、後ろから手を添え操縦桿を握らせたのだ。

「そう、その調子。で、今! レバーが自由になったの感じた? 此処で一度真上に引くんだ。これで……そうそう! 水平になったの分かったね? ここからゆっくり前に押して……ハイ、OK!」

 元気の良い掛け声と共に、大地に(いだ)かれるような軽やかな着地を終えたことに気が付いた。これ、こいつのサポートがなくとも独りで出来るようになるだろうか? なったら……操縦ライセンスの試験も一発合格どころか、最優秀生として称えられるレベルに間違いない。

「あの、ありがと」

 よっぽどハイタッチでもしてやりたい程の興奮が心の中を駆け巡ってはいたものの、大地どころかラヴェルに包み込まれているような気恥しい状況に我に返り、あたしはお礼を言いつつそそくさと席、ならぬラヴェルの上から降りた。

「どういたしまして」

 もしかして……あんた、口で言う程あたしを意識していないでしょ。

 言葉も表情もそれを感じさせずに立ち上がったラヴェルを苦々しく見上げ、ふとそう思ったりもした。淡々とした返しと時々見せるにこやかな笑顔。まぁ……あんまり意識されても困るから、あたしは別にいいのだけど。