「それじゃあ、そろそろ行ってみようか? ツパもついて来る? ユーシィは此処を片付けて、お昼までに来てくれればいいよ」
「え?」

 ツパイから無理矢理約束を交わされた苦笑気味のラヴェルは、おもむろに立ち上がりながらそう言った。それって……あたしに気を遣ってるの? あの嘘からテイルさんとの辛い時間を少しでも減らす為に。

「う、うん……じゃあ、そうさせてもらおうかな……」

 あたしも立ち上がり相槌を一つ。でもラヴェルの顔は見られなかった。あたしは弱いのだろうか? そしてラヴェルは──強い?

 まもなくして二人と一匹は揃って表に出ていった。キッチンへ空になったお皿を運んだものの、すぐには洗ってしまう気持ちになれなくて、定位置となった窓際のチェストに腰掛け、ハァと一つ溜息をつく。

 窓の向こうに見えるのは空の色ではなくて、着地している野原の草花。緑燃ゆる平原は、昇ってきた太陽が作る飛行船の影をたなびかせている。

 ラヴェルの旅の目的は何なんだろう……? ふとよぎった疑問に頭を(かし)げた。

 不幸な人に生きる希望を与えること? でもあいつは「盗む」のだと言った。今のところそんな様子は見えないけれど、一体何を奪う気なのだろう? 此処へ立ち寄ったことはイレギュラーな用件だったのだろうか? でもツパイには何も不審がる様子はなかった。

 また問い(ただ)そうとしたら、お茶だか睡眠薬だかで眠らされ、結局はぐらかされるのかしら……昨夜のあいつの瞳、真っ正直で真剣で、信じられなくても真実を語っていた、と思う。だからこそ。

 あたしの中には沢山訊きたいことが溢れていた。

 化け物のこと、この旅のこと、盗むとは? 『なかったこと』とは??

 あっ、そうだ! ラヴェルが答えないなら、ツパイに訊けばいいんだ!!

 そう思えたら、いつの間にか元気にすっくと立ち上がれていた。そうよそうよ、そうしよう!

 あたしは鼻歌混じりでお皿を洗い、辺りを片付け外へ出た。船を施錠してスキップまで現れた足取りの背後に、忍び寄る小さな影が沢山隠れていることも知らずに──。