「? ──わっ!」

 目の前に小さな足が二本、上からブランと垂れてきた!!

「ん? ラヴェル? 下に居るのですか?? この三日間、何も起こりませんでした? あ~お腹空きましたー! ……あれ?」

 だ、誰? 何!? どういうこと??

「ふむ……何も起こらなくはなかったみたい、ですね? あぁ、ラヴェル、朝食は何ですか?」

 キッチンからやって来たであろうラヴェルと、小さな足の主が目の前の床に飛び降りて、驚きのけぞるあたしを覗き込んでいた。とはいえその少年は、瞳が見えない程に前髪が長いのだけど。

 ラヴェルがあたしの目線まで腰を曲げて、意地悪そうに左口角を尖らせる。

「おはようユーシィ、朝から驚いちゃった?」

 驚かない筈ないでしょ! 昨夜の訳分からない終わりにも、今日一日の始まりにも!!

「朝食は焼き立てパンとサラダにオムレツ。それでOK? ツパ」

 絶句したあたしを無視して、献立報告なんてしてないでよぉ! って、え? ──ツパ??

「十分ですよ、ラヴェル。……君、ユーシィというのですか? 僕はツパイ。四日に一度ですけど、宜しくお願いします」

 四日に一度??

「あ、あたしはユスリハ……本当はツパじゃなくて、ツパイなのね?」

 見た目は十歳前後だろうか? 切り揃えられた青みのある黒髪の下に、子供らしい小さな鼻と、同じくこじんまりした唇が弓なりになっていて、少なくとも歓迎されていることは間違いなかった。差し出された可愛い手と握手を交わし、ふと苦笑するように歪められた口元を凝視する。

「ラヴェルは何でも自己流にしてしまうので。さて……食事の前にシャワーでも浴びましょうか。ユスリハ、お先にどうぞ?」

 ツパイの申し出にハッとして、自分の両頬を手で(こす)った。ああやっぱり埃っぽい。とりあえず全ての謎は朝食の時にでもゆっくりご説明願うことにして、あたしは頷き慌ててバスルームに逃げ込んだ──。