「ねぇ、あたし他にも訊きたいことがあるの」
「どうぞ? 何なりと」

 ラヴェルはこちらの意を汲んだようだ。あたしの真剣な眼差しと同じものがその義眼から滲み出した。

「テイルさんの息子さん──レイさんって言ったっけ? 彼は……誰に(さら)われたの? 連れ去られた後をあんたは知っているの? いつ、此処に戻ってくるの?」
「──」

 ラヴェルは三つの質問に口元を引き締めた。すぐには言葉は発さず、ケトルからポットに熱いお湯を注ぎ、ハーブが溶け込むのを待った。やがて僅かに開かれた唇は──

「ユーシィは……おばさんから訊いたの? もしくはこの町の誰かかな? ……彼は……化け物に攫われたんだ。黒くて毛むくじゃらの、黄色い眼の化け物」
「黄──っ!?」

 ああ……やっぱり、だ。あの化け物……アレがまだ人を襲っているなんて!!

「あの化け物は基本巣に戻って人を食す。だからきっと彼もそうなったと思う。だから……彼は、もう戻ってはこない」
「え……?」

 眼の色を聞かされた途端に全身を走り抜ける悪寒。それを両腕で抑えつけたあたしは、ラヴェルの二の句に愕然とした。

「あ……あんた、テイルさんに……嘘、ついた、の?」
「自分は嘘はついていない」

 震える声に、抑揚のない真っ直ぐな答えが返される。

「自分が言ったのは“今は戻れないけれど、ずっと愛しているから”だよ、ユーシィ。誰も生きているとも、帰ってくるとも言っていない」
「でもっ! あれじゃ……そ、それにテイルさんが「生きてるのね?」って訊いた時、あんた大きく頷いたじゃない!」