「元気出して! 香水とはいかないけど、立派な芳香蒸留水(ハーブウォーター)を作りましょ! 大きな蒸し器は何処かにあるの?」

 あたしは掌を合わせて払い、気持ちを切り替えるように声を張って立ち上がった。ミルモも応えるように口元を引き締めて見上げ、あたしを隣のキッチンへ(いざな)った。指し示された戸棚から大鍋を見つけてコンロに掛け、途中購入した山の天然水を注いだ。

「あ、ツパイ、ありがと」

 タイミング良く花粒の山となったザルをツパイが運んできてくれた。蒸し網の上にガーゼを敷き、その上にこんもりと乗せる。更にもう一つの蒸し網を入れて、ボウル状のお皿を置き、最後に逆さにした蓋で密封して火を点けた。

「これで沸騰したら、蓋の上に氷を乗せて……」

 蒸気が花の香を含み、天井の蓋に付いたそれが真上の氷に冷やされ、すぐ下のお皿に蒸留水となって溜まるという仕組みなのだ。氷は天然水のお店で買うことが出来た。

 一時間以上は掛かる為、蒸留水の方はツパイに任せ、あたしは入浴の準備をして、ミルモを脳天から足の先まで綺麗に洗い上げた。クローゼットから見つけた自分の洋服に着替えたミルモは、もう誰も孤児などと思うことのない可愛いお嬢さんだった。

「もうちょっとで出来そうね。花束を(まと)めるのにラッピングペーパーやリボンを買ってきましょうか?」

 あたしはお代を払った見栄えの良い花穂を視界に入れて、ミルモに問い掛けた。

「ママが香水瓶を包むのに、綺麗な紙を買ってたからきっとあるよ! えっと……確かココに……」

 作業場の扉に近い戸棚を開き、引き出しをごそごそと探るミルモ。その手の届かない高さの棚に、空の香水瓶が幾つも並んでいた。芳香蒸留水(ハーブウォーター)を入れる為の大きめの瓶を、あたしも探そうと手を伸ばした──その時。