「あんたの話が本当なら、相当レベルの高い操船士ってことよね? あの……良かったら操縦の方法を教えてもらえない? あたし、技師の資格が取れたら、飛行船で行きたい所があるのよ」
「もちろん。お安いご用ですよ」

 ラヴェルの即座の了承に、あたしは瞳を輝かせた。と同時に今更ながらの肝心な疑問が……それじゃあ一体、今誰が操縦しているというのだ!? ──あ……ラヴェルの言った『もう一人』? でもそんな人、操船室(コクピット)を修理している時でさえ見なかったよね……?

「では改めまして、コクピットへご案内致しましょう」

 空のグラスをチェストに置いたラヴェルは、時々現れる変にバカ丁寧な言葉遣いと優雅な仕草で、あたしの手を取ろうとした。が、あたしはスッと身をかわして先を歩いてみせる。こいつのペースに呑まれたら、また何をされるか分かったものじゃない。

 キッチンの脇に在る階段を降りて、階下の船首を目指す。突き当り正面に幅広の一枚扉があり、その中が操船室になっていた。

 やっぱり誰も居ない……。

 先に入室したラヴェルの向こうには、操縦桿が見えるだけで、誰も座ってはいない。

「ねぇ、どういうこと? まさか透明人間が操縦してるって言うんじゃないわよね……?」

 思わずおどおどとした声色で、キョロキョロと辺りを見回してしまう。計器は安定しているとはいえ、明らかに飛行中であることを示すように小刻みに振れている。