「ウェスティとラウル、どちらも年齢より若く見えると思わない?」

 俯いていく(おもて)を再び持ち上げた。笑いを止めた翠色の瞳があたしを温かく見詰めていた。

「ツパイが継承者を待つため時間を止められたように、継承者にも花嫁を待つために時間を緩やかにする力があるの。そうしてアナタに寄り添おうとしたんじゃないかしら。ラウルは三つしか違わないのだからそこまでする必要はなかったかも知れないけれど……ウェスティに対抗したかったのかもネ?」
「対抗……──あっ」

 あいつがあたしをウェスティと同じように『ユーシィ』と呼んだのも……そういう理由?

「あの……タラ。あたしもう一つ質問があるのですけど……」

 あたしは最後のピースに手を掛けた。これで……きっと今必要なピースは、全てあたしの手に入る。

「なぁに? どうぞ話して」

 ポットからカップに注がれたハーブティーは、ラヴェルの髪色──ラヴェンダー・ティーだった。

「あたしが飛行船修理のお礼にもらった金貨と、メンテナンスの為に同行してほしいと契約した報酬は……何処から捻出されたのですか?」

 ウェスティはラヴェルがジュエルを売って手にしたと言った。でも真実は?

「それはね……」

 タラはおもむろにカップを艶やかな唇に寄せ、それから潤った口元は、ほんのり上向きに弧を描いた。

「十年前、ウェスティが王位とジュエルを継承し、その後あんな騒動を起こしたでショ。それまでラウルとワタシをウェスティに縛り付けてきた先代王からの詫び料ヨ。実際には亡くなった時に発見された遺書に依り、遺産の分配から支払われたのだけど。ワタシはあれで思いきり豪遊したけど、あの子はちゃんと取っておいたのネ」

 ああ……これで『今』を形作るパズルは完璧に完成した。そしてそれは──ウェスティを『悪』とするものだった──。



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