「そ、うですね……では、あの……彼が盗まれたっていう或る物とは?」

 いざ問える状態になると緊張するものだ。今までは訊きたくても訊けないことの方が断然多かったのに。タラさんは率先して教えようとしてくれるなんて──後でラヴェルに叱られないかしら?

「ふむ~それネ。盗まれたのは『ラヴェンダー・ジュエル』。ラウルが継承する筈だった宝石ヨ」
「宝石……?」

 どうしてあいつがそんな宝石を継承する立場なんだろう?

「まぁ実際一度は継承したんだけどネ。『彼』に盗まれちゃった」
「彼?」

 チーズを頬張り、矢継ぎ早にワインを飲み干すタラさん。置かれたグラスには、もうおかわりが注がれている。

「ラウルが乗っ取られた『スティ』というのが彼のことヨ」
「スティ……あ! それじゃ、あいつのっ……じゃなくて、彼の中に居る別の人格って訳じゃないんですね!?」

 良かった~二重人格とかじゃなくて! まぁでも……他の誰かに乗っ取られるのも全然良くないけれど。

「ユーシィ、自分をそんな変態だと思ってたんだ?」
「んっ!?」

 斜め後ろから少々トゲのある質問が投げられて、あたしはビクッと肩を上下させてしまった。手に持つグラスの紅が揺れる。あいつったら、もう出てきちゃったの??