「そうだけど…! そうじゃなくて」



やけに絡まった唇。

言いたいことが察せないわけでもなくて。

もごもごと動いた私は,大人しく身体を預けるように,右の頬を澪の胸板に寄せた。

シャツを控えめに摘まんだ右手から,全部伝わればいいのにと思う。



「澪が,世界で1番大好き」



言いきった後,ほわんと胸が温かくなった。

言えるのって,こんなにも嬉しい。



「好き」



くすくすと笑うと,澪が私の名前を呼んだ。



「……え?!」



驚く私に,澪はふわふわと嬉しそうに私を抱き締める。



「流石に母さんの前はないと思って」

「だからさっき,ちょっとだけ外したの」



唇の端は,唇じゃない。