わたわたと立ち上がると,転けそうになるものの,「澪!?」という雫の声でなんとか持ち直す。

そのまま駆け出すと,澪が追いかけてくるのが見えた。

ど,どうしよう…

前を見ずに走っていると,ポスンと何かにぶつかる。

それは間違いなく人だ。



「ご,ごめんなさ…礼夢くん?!」



突進する私を猫背で受け止めたのは,礼夢くんだった。

礼夢くんは驚く素振りもなく,ニッと笑うと



「おいで」

「わわっ」



そう言って私の手を引いた。




「澪~! みおちゃん借りるな~!」




いつの間にか,澪の前でも『みおちゃん』になった彼は,人混みの中を堂々と駆け抜けたのだった。