臆病な私に,君の溺愛は甘過ぎる。

『約束な』



お父さんが,微笑む。



『ちょっ,ちょっと……』



私が,青ざめる。



『静かにしてって…そうゆう意味じゃ……』



泣くよりも先にと,血が出るほど強く唇を噛んだ私は周りを見た。



『…お願い! だれか…救急車は,まだですか』

『……クソッまだかかるってさっき』

『そんな,そんなのじゃ…』



間に合わない。

私は,そう口にしなかった。

どんどん握っている手から,温度が失われていく。
 
繋ぎ止めるように,より強く握っても,ピクリともしない。

おとうさん。

血まみれのお父さんに覆い被さる私を,止める人はいなかった。

やがて



『来た!』



親切な誰かの声で,私は泣き張らした顔をあげる。