ー菖sideー


何時だって,思い出そうとすればどんなことでも一瞬で出てくる。



『友達に聞いたんだけどね』



そうデートのプランを楽しそうに話す澪も。



『別れたい』



別れようでも別れてでもなく,そう涙をこらえて見せた澪も。

全部全部胸の中に居る。

ずっと隣に居て,一緒に食べたチョコの味も,あの頃だけのものだった。

最初に澪の違和感に気付いたのは,多分本当にすぐだ。

それだけ俺はちゃんと澪を見てた。

だから言い様のない焦りを覚えて,何も出来なくて,それでも決意したあの日。



『話がある』



そう帰り支度をする澪をつかまえた。

その時怯えた顔をした澪を見て,少なからず驚いたけれど,もう引くことは出来なかった。