「奈々ちゃんのお母さん、まだお仕事なの?」


暮町家で夕ご飯をご馳走になっていた時だった。
家に一人でいることが多かった私を、沙織ちゃんが心配してくれたのだ。


「うん。いっつも六時くらいに帰ってくるよ」

「六時って……まさか、朝の?」

「そうだよ。お母さんが帰ってきたらね、わたしすぐに分かる! めざましどけいの代わり!」


母に怒鳴られてから、私は必死に「いい子」でいようと努めていた。
あのとき怒られたのは、わがままを言ったから。だからきっと、大人しく母の帰りを待っていれば大丈夫。

朝起きて母が帰ってきたところを見てから学校へ行って、学校から帰ってきたら絢斗と遊んで沙織ちゃんのご飯を食べて、母のことを想いながら眠りにつく。母の仕事が休みの日はなるべく早く家に帰って、母と一緒にカップラーメンを食べた。

その頃はインスタントもレトルトも割と好きで、なぜなら一つひとつに母との思い出が詰まっていたからだ。
沙織ちゃんがご飯もおやつも手作りにこだわる人だったからか、絢斗は私の家に上がると、そういった即席の食品にとても興味を示した。そして二人で夕飯前にこっそり食べたこともあった。


「ごちそうさまー」