向けられた背中からは返答がない。それが答えだと思う。


「私が片親だからですか? 私の母が夜職だからですか? 違いますよね」


沙織ちゃんの態度が変わったのは、確かにそれも関係しているとは思うけれど、もっと言うと、もともとはそうだったのかもしれないけれど。
少なくとも今は(・・)、そうじゃないはずだ。


「あなたは、絢斗を愛している」

「……当たり前でしょう。母親だもの」

「いいえ。当たり前なんかじゃないです」


だって、それは母親としてじゃない。
執拗に私との接触を嫌がるのも、甲斐甲斐しく絢斗を世話するのも、全部。


「――女性として、絢斗を愛している。違いますか」


弾かれたように振り返った彼女が、その瞳に明確な嫌悪の色を宿す。コーラルピンクの唇が噛み締められて、歪んだまま言い放った。


「だとしたら、どうするの?」


本性を現したな、この野郎。
胸中でそう毒づく。今の彼女は完全にオンナの顔をしていた。


「気持ち悪いと、軽蔑しますよ。もちろん」


母親の皮を被って、自分の利益のために子供を好き勝手している。どんな理由や感情が背景にあったって、彼女がしたのはそういうことだ。

私を睨めつける彼女の横をすり抜けて、階段を下る。
キッチンにいた絢斗が何か言っていたけれど、無視して玄関のドアを開けた。