ハロー、愛しのインスタントヒーロー



沙織ちゃんは絢斗が階段を下りきるのを待っていたかのように、数秒経ってから口を開いた。


「奈々ちゃん。綺麗になったわね」


本心なのかお世辞なのか分からない。絢斗にも最初、同じようなことを言われた気がする。


「絢斗がね、どうしてもあなたに会いたいって言うの。だから久しぶりにこっちに戻ってきたのよ。会えないなら家出するって、そこまで言うから……」

「会えない、じゃなくて、会わせてもらえない、の間違いじゃないですか?」


あくまでも穏便に済ませようとしている相手の意図が読み取れた。けれども、私はこのまま愛想笑いで終わらせるつもりはない。
端から言いたいことがあったから、七年間頑なに絢斗と会わせなかった私を家へ呼んだのだろう。


「……絢斗から、聞いたの?」


彼女の目つきが変わる。


「はい。あなたが『私に会うな』と絢斗に言ってたって。だからずっと会いに来れなかったんだって、言ってました」


オブラートには包まない。彼女からは、絢斗のため、というよりも、私への疎ましさの方が濃く感じられた。悪意には、下手に怯んではいけないのだ。

そう、と気落ちした相槌が耳朶を打つ。


「色々考えたんです。七年も私へ会わないように言っていたのに、どうして今更引っ越してきたんだろうって。こっちへ来たら、必然的に私と絢斗が接触することになる」