ハロー、愛しのインスタントヒーロー



きっと私も書いたはず。あの頃、私は将来何になりたかったのだろう。
お花屋さん、ケーキ屋さん、アイドル。どれもそうだったような気がするし、そうじゃなかったような気もする。

でも、今の私が求めている「何にも脅かされない安定した生活」というのは、さすがに当時、望んでいなかった。
そんな曖昧で明確な基準がない未来なんて、「夢」とは呼べない代物だから。


「な、奈々ちゃん、それは……!」


絢斗の当時の夢は何だったのだろう、と興味本位でページをめくっていたら、彼が慌てた様子で声を上げた。
急に大声を出されて少々驚いたのと同時、部屋のドアがノックされる。


「絢斗? ちょっといい?」


ドアが開き、沙織ちゃんが顔を出す。


「ペットボトルの蓋が固くて開かないの。ちょっと来てくれない?」

「え? あ、うん、分かった」


私の方を振り返った絢斗が、「それ、中身ぜったいに見ちゃだめだよ!」と忠告を入れて部屋を出る。
フリだろうか、と思わなくもないけれど、絢斗のことだからそんなつもりで言ったわけではないのだろう。

仕方なく冊子を閉じ、――未だそこに立っている彼女に視線を寄越した。


「最初から、私に話したいことがあったんですか?」