私に気を遣っての言い回しだということは、容易に分かった。
ずっと前。でも、絢斗はちゃんと覚えている。それが全てだ。
私は昔のことを、絢斗と過ごした時間を大切に思っていたはずなのに、詳しく語れと言われてもそれができない。
明確に思い出せるのは悲しみが付随した記憶ばかりで、いつの間にか脳内で絢斗を責めてばかりだった。どうして、なんで、私にこんな思いをさせるの。会いに来てくれないの、と。
絢斗が私のことを忘れた? どこの馬鹿がそんなことを言ったのだろう。
手紙を寄越し続けて、会いたい、会おうとし続けて、今も変わらず昔の記憶を抱き締め続けている。
彼は私よりもっとずっと、私たちのことを大事にしていた。大切にする、ということを、私より上手にできるし、口だけではなくきちんと実行できる人だった。
返事をしようにも適切な言葉が見つからず、教科書の表紙を撫でる。
ふと、机についている本棚に収納された冊子に目がいった。教科書などは散らかったままなのに、そこだけきちんと整理されていたからだ。
『みんなのしょうらいのゆめ』
一つ抜き取った冊子には、そんなタイトルがつけられている。軽くぱらぱらとめくってみたところ、クラスのみんなが将来の夢について書き記している文集のようなものだった。



