ハロー、愛しのインスタントヒーロー



二階に上がり、先導していた絢斗が遠慮がちにドアを開ける。彼の部屋だ。
絢斗の場合、散らかっているというのは謙遜でも卑下でもなく、ただの事実である。

漫画、野球のグローブ、ゲーム機。床には物が散乱していた。いかにも男子高校生らしいラインナップだ。

なんとはなしに部屋の中を観察していると、教科書が乱雑に積まれた机の上に、一つだけ写真立てを見つける。


「……これ、」


思わず手に取った。掴んだ指先に力が入って白んでいく。


「懐かしいよね。二年生の時の遠足の写真。奈々ちゃんと二人で写ってるの、それしかなかったんだ」


絢斗の言うように、写真立てに飾られていたのは私と彼のツーショットだ。背景が緑一色なので、恐らく木の生い茂った公園で撮ったものだろう。細かいところは正直よく覚えていない。


「あの時、奈々ちゃん遠足用のおやつを家に忘れて来ちゃって、朝からずっと不機嫌だったなあ。僕のおやつを分けてあげたんだよ」

「そう、だっけ?」

「そうだよ。奈々ちゃんがほとんど食べちゃったから、それでちょっとだけ喧嘩したんだ。覚えてない?」


昨日のことのようにすらすらと思い出を振り返る絢斗に、黙るほかなかった。
彼の瞳が少しだけ不安定に揺れる。


「……覚えてない、よね。もうずっと前のことだもん」