喉が妙に乾いていた。
絢斗が引っ越してきた日、見かけた顔と全く同じそれが、いま目の前で佇んでいる。
「沙織ちゃん、どこ行ってたの? 買い物?」
「そこのスーパーに行ってきたの」
言いつつ持っている袋を掲げた彼女は、絢斗の学ランの裾に手を伸ばした。一番下のボタンが外れていたのが気になったらしい。やけに懇ろに留め直し、だらしないでしょう、と柔らかい口調で窘める。
「二人は学校帰りよね。これからどこか行くの?」
「行かないよ。どうして?」
「だって、一緒に歩いてたから。待ち合わせして出掛けるのかと思った」
「駅で偶然会ったんだよ。ね、奈々ちゃん」
親子の会話に聞き入っていたところで、唐突に話を振られた。
頷いて見せれば、沙織ちゃんがなぜか少しほっとしたように頬を緩める。
「そうだったの。……もし良かったら、奈々ちゃん、この後うちに来ない?」
「え、」
想定外の誘いに、なすすべもなく動揺した。絢斗ならまだしも、沙織ちゃんがそんなことを言うだなんて、まさかとしか表現のしようがない。
もちろん、絢斗がその提案に乗らないわけがなく。
「賛成! 奈々ちゃん、久しぶりにうちでご飯食べよ!」



