ハロー、愛しのインスタントヒーロー



いつもと変わらない調子で聞いていたつもりだったのに、突然顔を覗き込まれたので驚いた。思わず足を止め、伏せていた目を上げる。


「何かあったの?」


そう問われて、答えに詰まった。私自身もそこまで気分が沈んでいた自覚はなく、ただ母に話さなければならないことがあるというのが億劫だった。

どこかいたたまれなくて、また目を伏せてしまう。


「……何もない。大丈夫」

「あ、嘘ダメだよー。奈々ちゃん分かりやすいんだもん、すぐバレちゃう」


絢斗にだけは言われたくない。若干眉根を寄せたものの、彼が私の嘘に敏感なのはこちらも理解していた。
反駁する代わりに、割り切れない頷きを返そうとした時。


「絢斗?」


その声は前方から確かに聞こえた。刹那、全身の筋肉が硬直してしまったかのように緊張が走る。
恐る恐る顔を上げた私に、相手が目を見開いた。

素朴さの滲む綺麗なダークブラウンの瞳と、私とは対照的な緩くウェーブのかかった髪の毛。
彼女は一瞬表情を強張らせた後、すぐに穏やかな笑顔を浮かべる。


「あら、久しぶりね。奈々ちゃん」


爽やかな挨拶だった。
センターで分けられた前髪が年月の経過を感じさせる。それでも相変わらず、優しそうで綺麗な人という印象は健在だ。


「……お久しぶり、です」