努めてくっきりと発音するように呼びかけられ、ふらふらと揺蕩っていた意識を戻す。
「今月末から三者面談が始まるが……親御さんとは進路のこと話してるのか」
眼鏡の奥、探るような目つき。
去年の担任から、私の親のことは粗方聞いているのだろう。そうでなければこの言葉は出てこない。
それにしたって、日常会話すらままならない母と娘が進路の話などできると本気で思っているのか。
「あの、三者面談ってこの時間にやるんですよね。多分うちの親、来れないと思います」
仕事があるので、と先手を打ってから口を噤んだ私に、佐々木先生が何とも言えない顔で黙り込む。
「……ご都合があるのも分かるが、大事な話だ。お前が話さないなら、先生から電話をかけて話すことになる」
「うわ」
思わず声を漏らしてしまい、口を押さえた。
今の私の反応で、母に進路の話を何もしていないことがバレたらしい。相手が苦笑気味に肩を揺らす。
「お前自身が本当に望んでいるなら、構わないんだけどな」
私が持っているプリントに視線を投げ、先生は浅く息を吐いた。
今の言い方はつまり、私がやむなく進学を諦めた、とでも思っていそうだ。とんでもない。どちらかと言えば、早く自立したかった。



