目が覚めた時には部屋の中が明るくて、すっかり朝になっていた。
テーブルの前で呆然と立ち尽くす母に気が付いて、一気に眠気が飛ぶ。
いつ帰ってきたんだろう。どれくらいの間、そうしていたのだろう。
お母さん、と呼びたかったけれど、声が出なかった。お腹が空いていたから。喉が渇いていたから。
ううん、それよりも多分、怖かったから。その時の母の目が、何の光も宿していなくて、恐ろしかった。
母はその日を境に変わってしまった。私に大声で怒鳴るようになったし、次の瞬間には泣き崩れる。
夕方に出掛けて朝まで帰ってこないことも増えた。仕事の種類が変わったんだと理解したのは、かなり経ってからだ。母が香水臭くなったのもこの時からだったと思う。
父がいなくなってからの母は明らかにぼろぼろで、そんな母を一人にしておけなかった。私がそばにいたところで当たり散らされるだけだけれど、小学生の私に何ができるのか分からないけれど、それでも。
急に学校を休み始めた私を、当然と言うべきか絢斗は心配してくれた。家に一人で籠っていたところへ遊びに来てくれたり、外へ連れ出してくれたり。
クリスマスが近付くと、寒くて痛くて苦しい記憶を思い出してしまう。
部屋で一人縮こまる私の背中を、絢斗はいつも優しくさすってくれた。
「ななちゃん、僕がいるよ。ずっと一緒にいる。毎年、ぜったいに、そばにいるから」



