きっとお母さんが料理を作って待ってくれている。お父さんがケーキを買って帰ってきてくれる。
なぜかそう思っていた。どうしてだろう。
母はその日仕事で遅くまで帰ってこないし、父だって家にいる保証などないのに。
案の定、玄関には母の靴がなかった。その代わり、父の靴があった。
「お父さん!?」
慌てて家の中へ入ると、部屋は少し荒れていた。急いで物を探していたような、そんな荒れ方。
「……奈々、お前、何で」
父がスーツケースを広げている。もうその中はぎっしりで、ほんの数日分なんかじゃない。じゃあ何日分だというのか。どうして、荷物の整理のようなことを、今ここでしているのか。
「お父さん、なにしてるの?」
「……学校はどうしたんだ」
「明日から冬休みだよ。今日ね、しゅうぎょうしきだったから……」
ぱんぱんに詰め込まれたスーツケースを手に、父が立ち上がる。そういえばそうか、失敗した。そんなことを呟きながら。
「ねえ、どこ行くの?」
私の質問には答えず、父がテーブルに一枚の紙を置いた。はっきりと見た。――離婚届、の文字を。
「お父さん……?」



