ハロー、愛しのインスタントヒーロー



淡々と述べた母は、ドアを閉めて二人を追い返してしまった。そのまま私から手を離し、何を言うわけでもなく部屋の奥へ向かっていく。
ほら、やっぱり。お母さんは怒らない。私が何時に帰ってこようと、そんなのはどうだっていいのだ。

沙織ちゃんは本当に優しい人だった。
私の両親が私に無関心なのを知って、おかずを持って訪ねてきてくれたり、家に呼んで料理を振る舞ってくれたり、まさに理想のお母さん像で。そんな沙織ちゃんに愛されている絢斗が心底羨ましくて、時々無性に寂しくなった。

小学二年生の冬、父と母が最大の喧嘩をした。最大といっても、要するに今までため込んできた不満が爆発した類いのものだと思っている。
いつにも増して言い合いは激しく、とうとう父はその勢いで家を出て行った。数日後にふらっと帰ってきたかと思えば、母に鉢合わせて口論をして、また出て行く。その繰り返し。

その日は確か、終業式で学校が早く終わった。家族でクリスマスパーティーをするんだと楽しそうに話す絢斗に、私はそこで今日がクリスマスであると気が付いた。
何年前か忘れたけれど、両親と一緒にケーキを食べた記憶がある。すごく嬉しかったから覚えている。


「わたし、今日は帰る!」