ハロー、愛しのインスタントヒーロー



彼が言葉を区切る度、ぎゅ、と手に力がこもる。


「でも、新しい家が結構遠くて……ここにしようねって言ってた家じゃなかったんだ。そこを通り過ぎて、どんどん進んでいって、着いたのが初めて見る家だった。ここにしようって言ってた家と似てるからいいでしょって沙織ちゃんは言ったけど、造りとか、見た目とか、そんなのどうでもいいんだよ。だって、僕は奈々ちゃんから近ければ近いほどいいって思ってたから……。どれがいい? って聞かれて、この町から一番近い、奈々ちゃんに一番近い家を選んだのに」

「絢斗、」

「嫌だったんだ。何回も嫌だって言った。お父さんにお願いして、車で奈々ちゃんのとこまで会いに行きたいって言ったのに」


絢斗が私の手を一層強く握る。痛いくらいに強く、震えながら。


「……私に会うなって、言われたんだね。沙織ちゃんに」


とうとう、彼の目から雫が一滴零れ落ちる。それは、再会してから初めて見る絢斗の涙だった。


「ごめんね……約束、したのに……ずっと一緒にいるって、毎年、僕がそばにいるよって、言ったのに……」

「うん。でも、それはしょうがないよ」

「だって、奈々ちゃん、ずっと一人で……!」