ハロー、愛しのインスタントヒーロー




「保冷剤……あった」


冷凍庫の中を掻き分け、目当てのものを取り出す。それをハンカチで包んでからリビングへ戻ると、絢斗が顔を上げた。


「あ、奈々ちゃん、ありがとう」

「ちゃんと冷やしな」

「うん」


喧嘩など生まれてこのかた一度もしたことがないであろう幼馴染が、そこそこ思い切り人様を殴って無傷なわけがなく。

日比野くんとの一騒動が終わった後、絢斗は「やっぱり痛い」と涙目で訴えだした。もちろん、日比野くんの頬を打った拳のことだ。
仕方なく部屋に上げ、手当てをしてやることにした。大家さんを呼んで鍵を開けてくれたのは一応絢斗の頑張りなので、そこは認めてあげるとしよう。


「あっ、そうだ! 奈々ちゃんも冷やした方がいいんじゃない? 手首とか……」

「こんなのすぐに治るよ。いいから自分の心配だけしてなって」

「でも、痕残ったら大変だよ!」

「残んないから」

「そんなの分かんないよ、ちゃんと冷やそう?」


やっぱり、しつこくて頑固な部分は健在なようだ。
ため息をついて、はいはい、とキッチンへUターンする。再び冷凍庫を開けたところで、「ハイは一回だよー!」と何とも幼稚な注意が飛んできた。


「はーい」

「はーい、じゃなくて、はいっ、だよ! 歯切れよく言うのが大事!」