絢斗はちゃんと、しずかくんを見ていたのだ。私と違い、彼のことを気にかけていた。
しずかくんを見向きもしなかった私と、分かっていた上で立ち止まらなかった絢斗。やっぱり、つくづく私たちは二人で完結してしまっているのだな、とあの日に思いを馳せながら目を伏せる。
「悪いのは僕なんだ。奈々ちゃんは僕がケガしてたから慌ててただけで、僕があの時ちゃんと言えば良かった。しずかくんの手を引っ張って、連れてっちゃえば良かった」
「……別に、俺は手繋ぎたかったわけじゃないけど」
気の抜けたような、乾いた笑いが、日比野くんの唇から漏れた。それにつられるようにして、絢斗が困り顔のまま少しだけ笑う。
「お前が――絢斗が、そこまでちゃんと覚えてるとは思ってなかった」
「忘れないよ。僕、記憶力はいい方だから」
再び顔の筋肉を引き締めた絢斗に、日比野くんは「いい」と緩く首を振る。
「謝んな。俺も殴られたし、全部チャラだよ。……覚えてたんなら、それでもういい」
そこまで聞いて、絢斗が安堵した様子で小さく息を吐いた。と思いきや、あ、と声を上げる。
「でも、……き、キスはないと思うよ! あんな僕の目の前でする必要ないじゃん!」
「それより際どいもん見といて何言ってんの?」



