ハロー、愛しのインスタントヒーロー



日比野くんも戸惑っている。これだけ情緒不安定な絢斗は私ですら見たことがないので、若干恐ろしい。


「いや、その……奈々ちゃんのこと傷つけたのはムカつくけど、僕も、しずかくんに謝らなきゃいけないことがあって」


絢斗の手をさする音が、不格好に鳴り続いている。


「さっきの話聞いて思い出したんだ。……ううん、本当は、ずっと覚えてた。さすがに日比野くん? が、しずかくんだとは思わなかったけど……だって、すごいかっこよくなってたから」


まどろっこしいけれど、何の偽りもまじりけもない口調。
絢斗の方が私よりも先に「しずかくん」に気が付いていた。その種明かしを、これからするようだ。


「しずかくんが僕を助けてくれた時のこと、よく覚えてるよ。その後のことも……。あの時、しずかくんも一緒に行こうって、奈々ちゃんに言おうとしたんだ。でも言わなかった。奈々ちゃんが手を繋いでくれたのが嬉しくて、奈々ちゃんを、僕がひとりじめしたかったから」


さすっていた動きを止めて、絢斗がその手をきつく握りしめる。


『ななちゃん、あのね』

『なに?』

『……ううん、なんでもないよ』