悔しい。もう会いたくなかったのに、腹が立って仕方ないのに、会えて嬉しいと思う自分がいて悔しい。真っ直ぐに追いかけてくる絢斗を、突き放すことでしか心の均衡を保てないのがやるせない。

だって、どうしたらいいの。
嫌だった。苦しかった。寂しかった。もうあんな思いをするのは嫌だ。冷たいまま放っておいてくれればよかったのに、勝手に手を握って温もりを与えたのは絢斗だ。温かいと知ってしまったら、以前ならどうってことなかった僅かな寒さが沁みて沁みて痛い。

もう失いたくない。また手を離されたら、今度こそ立ち直れないかもしれない。
ようやくこの冷たさに慣れてきたのに、無理やり溶かさないで。


「奈々ちゃん。僕、もうどこにも行かないよ」


あの時の私にとって、絢斗は何物にも代えがたい光であり、温もりだった。きっと、誰よりも大切だった。
認めたくない。私は、もう、大切なものをつくりたくない。いつかこの手をすり抜けて、零れ落ちてしまうから。


「嘘だ……」


怖いのだ。大切なものを、絢斗を失うのが、何よりも怖い。だから、最初から離れたところにいて欲しい。


「嘘じゃないよ。僕の目、見て」