それなのにそっちは忘れたのか――とでも言いたげな口調だった。冗談じゃない。


「そっちこそ噓つかないでよ……」


毎日君のことを考えていたよ、なんて、そんなのは口先でどうとでも言えるのだ。付き合いたてのカップルのようで吐き気がする。

あんたに分かるのか。毎日布団の中で泣きながら越えた夜を。長くて気が遠くなりそうな、深く暗い夜を。
毎日考えていた。忘れたことなんてない。忘れたくても忘れられないから、毎日考えられるのだ。否応なく、何度も何度も。

置いていった側のあんたに、一体何が分かるんだ。


「あっさり行ったくせに……会いたいって言っても、会ってくれなかったくせに!」


本当に私のことを忘れていなかったのなら、寂しいとか辛いとか、そういう感情があって然るべきじゃないのか。そんな程度の気持ちで中途半端に記憶を掘り返されては、たまったもんじゃない。


「先に裏切ったのはあんただよ。許さないから。私を置いてって、一人にして、絶対許さないから!」


そんな程度の優しさで、私を大切にしようだなんて死んでも思うな。拾った愛は責任持って最後まで包み込めよ。それができないなら、最初から何も与えるな。


「奈々ちゃん……」