ごめんね、と。眉尻を下げて絢斗が笑う。
何笑ってんの。笑ってる場合じゃないんだよ。全然、何にも、可笑しくないよ。
「意味、分かんない……」
喉の奥が熱く振動している。気を抜くと泣いてしまいそうだ。
私は怒っている。むかついて、いらいらして、許せなくて、だからもう泣いてしまいたい。どうして分かってくれないんだと、喚きたい。
涙に理由をつけたかった。絢斗はあっさり私を置いていったのに、私の方だけずっと悲しくて泣いているのが悔しかった。絢斗のために泣くのはもう嫌だ。流した分だけ私の方の天秤の受け皿が重く沈んでいくだけで、それを実感してしまうから、もっと悲しくなる。
嬉しい、と思いたくはなかった。喜んだら負けだ。昔とおんなじだ。
嬉しくない。今更戻ってきたって、私のことを大切にしたって、もう遅い。もう嬉しくない。嬉しくない。嬉しくない。
「彼氏いるって言った! もうあんたとは会わない、会いたくない! 何で分かんないの!? しつこいんだよ!」
ありったけの怒りを込めて、絢斗にぶつける。息を吐きだし、呼吸を整える。
「……うん」
私を見つめる絢斗の瞳は、変わらず優しい。
涙が、出た。



