ハロー、愛しのインスタントヒーロー



半分ほどのぼったところで、黒くてぽわぽわしたものが視界に入ってくる。どこか見覚えがある気がしつつも、訝しみながら一段、また一段と踏みしめていく。


「……は、」


思わず足が止まった。目の前の光景に立ち尽くす。

膝を抱えて座り込んでいた絢斗が、私の気配に気が付いたのか、ゆっくりとこちらに視線を移す。その目尻が、ほっとしたように弛緩する。


「おかえり。奈々ちゃん」


学ランの第二ボタンに反射した光が、眩しく私の瞳孔を攻撃してくる。柔らかい声に、優しい表情に、絶句した。


「……何、してるの」


かろうじて絞り出した私の問いに、絢斗がえくぼをつくる。


「何って、奈々ちゃんのこと待ってたんだよ」

「何で」

「会いたかったから?」


首を傾げられても困る。聞きたいのは私の方なのだ。

どうしているの。あの日と、こないだと、変わらない調子で笑い続けていられるこの男のことがそろそろ本気で理解できなくて、脳みそが爆発するかもしれない。


「……もう来ないでって、言ったじゃん」

「うん。でも、来ちゃった」

「私に構わないでって言ったのに」

「うん」