浮かれた声が私たちの鼓膜を揺らした。お決まりのごとく、すぐにインターホンが鳴る。
日比野くんは玄関の方に視線を投げ、それから流れるようにして私を見やった。少し意地の悪い表情。きゅ、と目を細めながら。
「返事しなくていいの?」
まさか、この状況を愉しんでいるのだろうか。彼の顔と声色から察するに、そんな気がする。
返事と言われても。入っていいよ、と促すのも違うと思う。
私が答えあぐねていると、玄関のドアがガチャリと開いた。
「あれ、鍵開いて……」
中をそっと覗き込んできた絢斗が息を呑むのが、はっきり分かった。
互いにはだけたシャツ、露わになった下着、私の上にまたがる日比野くん。
絢斗はその一つひとつを自身の目で確認し、ただ立ち尽くしている。その顔には限りなく驚愕に近い感情が浮かんでいて、一時停止の瞬間のようにも見えた。
「…………なな、ちゃん? 何、して」
絢斗の声が震えている。唇が、瞳が、全て震えている。怯えている、と言った方が正しいのかもしれない。
それは幼少期に初めて見てしまった刺激の強い昼ドラのベッドシーンというよりも、心の準備ができていないままチャンネルを変えて突然見てしまった日曜劇場の殺人シーンに近い驚愕で衝撃。
呼吸も忘れてしまったのだろうか。目を見開いて固まる絢斗の顔をまともに見続けることができず、目を逸らして告げる。
「彼氏なの」



