ハロー、愛しのインスタントヒーロー



私が押し倒したというよりも、私の意図を察して倒れてくれたのだと思う。無抵抗に組み敷かれている日比野くんが、皮肉っぽく告げた。


「時間がないの、もうそろそろ来るだろうから。してるとこ見せるのが一番手っ取り早いでしょ」


ブレザーを脱ぎ、制服のリボンを外す。ワイシャツのボタンに手を掛けたところで、彼が「なるほどね」と息を吐いた。


「せっかく二人でいるのに、自分で自分の服脱ぐなんてナンセンスだよ」

「は――」


彼の顔が近付く。否、彼が起き上がって、その代わりに私を文字通り押し倒した。ネクタイを緩めながら、気怠そうに前髪を掻き分けている。


「要するに、さ。好きだとか愛してるとか、寒気がするようなこと言って善がってればいいわけでしょ」

「……そこまでしなくていい」

「ふーん。喘ぐ役は奈々ちゃんがやってくれるんだ?」

「だから、フリでいいんだってば」


分かってるよ、と日比野くんがスラックスのベルトを外しつつ、腰を押し付けてきた。


「ほら、全く反応してないし。どう足掻いてもフリにしかならないから安心して?」


怒ればいいのか悲しめばいいのか。絶妙に失礼な物言いに呆れていた時。


「奈々ちゃーん!」