ハロー、愛しのインスタントヒーロー




「どうぞ。入って」


立ち止まった日比野くんにそう促し、廊下を進んでいく。
彼はゆっくりと視線を巡らせ、「お邪魔します」と礼儀正しく挨拶を入れた。

家に入った途端、高圧的になったり顔をだらしなく緩めたり、そんな男は腐るほどいるけれど、日比野くんは一切変わらない。穏やかな表情を浮かべながら、どこか冷めた目で私のテリトリーに足を踏み入れる。

彼氏のふりをして欲しい――その決行のチャンスは思ったよりも早く訪れた。

家のすぐ近くで、またしても絢斗と出くわしたのは昨日のこと。気まずくてそのまま素通りしようとしたところ、呼び止められてしまったのだ。
さすがの絢斗も通常よりかは元気がなさそうで、けれどもめげていなかった。


『いくら奈々ちゃんのお願いでも無理だよ。いっぱい話したいし会いたいし遊びたい』


このままだときっと、また押しかけてくるだろう。
だから私は、分かったような顔をして絢斗に言い渡した。じゃあ明日、うちに来て、と。


「日比野くん、そこに座って」


リビングに続くドアを開け放ち、玄関からちょうど見える位置に腰を下ろしてもらう。
その目の前に、向かい合う形で私も座り込んだ。そして、彼の両肩を掴み押し倒す。


「随分積極的だね」