ハロー、愛しのインスタントヒーロー




生徒会室。真面目の権化のような場所に足を踏み入れる日が来るなんて思わなかった。
きっちりと整理整頓された資料が、本棚に隙間なく収まっている。


「で、話って何かな」


一番奥の椅子に腰掛けていた彼が、私に問いかけながら足を組んだ。
品行方正な生徒会長であったらそんな仕草はしない。つまり、今は日比野静嘉(しずか)そのものである、ということだ。

今朝、彼の机にメモを入れたのは私だ。昼休み、話がしたい。端的にそれだけを伝えるために。


「用件はなるべく端的にスマートに済ませたい日比野くんのために、結論から言うけど」

「はは。もしかして根に持ってる?」

「まさか」


今日も彼は浅く笑っている。冷酷な瞳だけをたたえて。


「最近ストーカーにつきまとわれて困ってるから、協力して欲しいの。そいつが諦めていなくなるまで、適当に彼氏のふりでもしてくれない?」


視線がかち合う。瞳の奥の奥まで覗き込まれているようで気味が悪い。彼の放つ空気に圧されている。
でも恐らく、逸らしたら負けだ。


「ストーカー、ね。同じようなこと言って俺と恋人ごっこしたがる女の子いるんだよ。毎回思うんだけど、まず警察に相談するべきじゃない?」