ハロー、愛しのインスタントヒーロー



彼と大して中身のないやり取りをしていたら停留所に着いた。
降りて数分歩けば、見慣れたアパートが近付いてくる。


「最初に言っとくけど、うち狭いからね。あとあんまり長居はしないで」

「大丈夫大丈夫。さくっと終わらせて帰るよ」


ひらひらと手を振る日比野くんに納得し、ほんの少しだけ歩くペースを上げた時だった。


「奈々ちゃん?」


背後から飛んできた声に思わず足が止まる。――ああ、最悪。今日も今日とて、最悪最低だ。

振り返りたくなくて地面を睨んでいると、駆ける足音が聞こえてくる。


「ねえ、その人って彼氏!?」


不意に肩を掴まれた。瞬間、かっと頭に血が上り、反射的にその手を振り払う。


「触んないでよ!」


後ろを振り返った。
案の定、呆けた顔で固まる絢斗がいて、よろけた反動でぽわぽわと揺れる黒髪が何とも場違いだ。

絢斗はそのぽわぽわな髪の毛を更にぽわぽわ揺らしながら、私に詰め寄ってくる。


「奈々ちゃん、彼氏なの? 彼氏できたの?」

「あんたには関係ない」

「何で!? 関係あるよ、気になるよ!」


うるさい。面倒くさい。鬱陶しい。
いつまでもちょこちょこ私の後ろをついてきて、きんきん大声を出さないで。

簡単に幼馴染面をしないで欲しい。あっさり昔のように元通り、なんて、そんな都合のいいこと許さない。


「知り合い?」