でも、と顔を上げた彼の瞳が、真っ直ぐ私を映す。


「本当に奈々ちゃんのことが好きです。絶対に奈々ちゃんを幸せにします。それだけは信じて下さい」


僕と、家族になってくれますか。
いつになく真剣な表情で、耳まで赤く染めながら、絢斗が将来の約束を乞う。


『一緒にいるだけなんて、そんなの結婚でもしない限り無理な話なの』


形が変わろうと、私たちは一緒にい続ける。それが自分の首を絞めることになろうとも、胸を切り刻まれるくらい悲しくとも、構わない。

これが私たちの、限りなく優しく、限りなく残酷な終着点だ。


「絢斗。指輪はめて」


左手を自ら差し出して彼にねだる。
絢斗は少しだけ目を見開いて、嬉しそうに微笑んだ。

彼がおもちゃのリングを取り出す。割れ物を扱うかのように丁寧に私の手に触れて、薬指へリングを通していく。

左手を掲げて、きらきらと僅かな光を反射している宝石を見つめた。


「大切にするね」


きっとこの日を何度も思い出す。自分は大事にされていて、確かに愛されているのだと思えた日のことを。なんの変哲もないちっぽけな部屋の中、眩しい未来を夢見た日のことを。


「いつかちゃんとした指輪あげるから、待ってて」


幼い時と同じ無邪気さで、彼が照れたように笑う。
ようやく私も笑い返して瞳を細めた時、温かい涙が視界を滲ませた。