全然分かってないなー、と揶揄い口調で続ける彼に、思わず反論する。
「だ――だって、手繋いだだけで嬉しいとか、そんなピュアな心忘れたし」
「キスでもお見舞いしてやりゃいいじゃん。さすがに吐くほど嫌だったらやめてやればいいけど、死ぬわけじゃないんだし。ずっとしてたら慣れるかもしれないし?」
「はあ……? それ、あんな深刻な顔で話してた人が言うこと?」
ていうか、キスした直後に吐かれたら立ち直れないんですけど。
知らぬ間に睨んでいたらしい。私の目つきに、井田くんが「ごめんって」と肩を揺らした。
「いや、だって分かんないじゃん。付き合っていくうちに、妥協点が見つかるかもしんないっしょ。絢斗と此花さんに限らず、どのカップルもみんなそんな感じじゃね?」
そうなんだろうか。いや、そうなのかもしれない。
幼馴染の私たちは終わった。次に待っているのは恋人としてのフレームワークで、特別でも何でもないのだ。お互いの価値観を擦り合わせながら、努力をし続ける旅。
終わりが来るから、と毎日を消耗するように生きるのではなくて、いつ終わっても悔いのないように、毎日を潤わせていくこと。
「井田くん。ありがとう」



