周りの喧騒が遠くなっていく。言われた内容を文字通り頭に入れても、一向に理解なんてできなかった。
「俺も最初聞いた時はよく分かんなくて、下世話な冗談言っちゃったんだけどさ。色々調べて、そういう人は少なからずいるんだなって知ったんだ。恋愛感情そのものが持てないって場合もあるし、行為だけ受け付けないって場合もあるし、ほんとにその人によって違うみたいで」
井田くんが丁寧に説明するのを、他人事のように聞いていた。彼は当たり前に理解して受け入れたのだな、とも思った。
だって、そりゃそうだ。井田くんにとって絢斗はただの友達で、友達がどんな価値観を持っていようが受け入れる他ない。相手は相手、自分は自分。そうやって割り切れるから関係を続けられるのだ。
私は違う。私にとって絢斗は大切で唯一無二で、好きな人。ずっと一緒にいたい人。
友達じゃない。恋や愛を伴った人間同士が一緒にいるには、価値観の擦り合わせがどうしたって必要になる。
大事なものの優先順位を見失って壊れていく男女なんて、今まで腐るほど見た。
「絢斗が此花さんのことを大事にしてるのも、すごい好きなんだろうなっていうのも、俺は絢斗の話を聞いて分かってるつもりなんだ。だからあの日、あんなこと聞いちゃってさ」



