『僕じゃ、奈々ちゃんを幸せにできない』
多分、あれは失恋なんだと思う。
絢斗は私のことが好きで、好きだから、一緒にいられないという結論を出したのだ。自分と一緒にいても幸せになれないから、と究極の殺し文句を使って。
痛みは少しずつ体を蝕んで、それでも私はまだきちんと諦められていない。絢斗と一緒にいることはできないとあんなに思っていたのに、いつか手放さなければならないと思っていたのに、終わりはきてしまうのに、いざ失うとなったら、何一つ覚悟なんてできていないことを知った。
いつか終わるのだから、綺麗に終わらせたい。ちゃんとこの恋を失いたい。
「ずっと悩んでたよ」
井田くんが私の質問に答える。
「絢斗は、ずっと悩んでた。僕が奈々ちゃんのそばにいる資格はあるのかな、って、最近はそればっかりだった」
「資格?」
彼は頷いて、前にさ、と続けた。
「此花さん言ってたよね。好きかどうかって、キスできるかどうかだって」
胸の奥がひりついている。井田くんには何もかも見え透いているのかもしれない。
『まあ、人それぞれだよな、大事にしてるものって』
『自分の中の大事なものまで変えなくていいけどさ、違うものを大事にしてるやつもいるんだって、ただ、知ってて欲しい』
それは、全部絢斗のことを言っていたんじゃないのか。
「――絢斗は、誰にも性的欲求を持てない。そのことにずっと悩んで、苦しんでたよ」



