絢斗がまた謝罪を繰り返す。さっきよりも確信めいた音を秘めていて、不安が募った。
「僕と一緒にいても、奈々ちゃんに普通の幸せはあげられない。みんなが普通にできることも、僕はできないから」
「普通って、」
「奈々ちゃん、前にずっと言ってたよね。家族みんなで、一緒にいるのが夢なんだって。赤ちゃんを産んだら、絶対に大事にするって」
小学生の頃、そんなことを言っていた記憶がある。
幸せな家庭を持つことに異常な憧れがあった。賑やかな方がいいから子供は二人欲しい、とか、その子たちが寂しくないようにいつも一緒にいてあげるんだ、とか、ほとんど当時の自分の不満を裏返したようなことばかり。
「奈々ちゃんのお母さんに言われて、気が付いたんだ。ただ一緒にいるだけじゃだめなんだって……それだけじゃ、奈々ちゃんを幸せにはできないって」
やはり絢斗が強く悩みだしたのは、母の発言が原因だったらしい。
そうはいっても、まだ彼の悩みの種がよく分かっていなかった。
『みんなが普通にできることも、僕はできないから』
つまり、そのせいで私と一緒にいられないということだ。何か月も一人で悩んでしまうほど、重大な不可能だということだ。
「僕は……僕はね、」
絢斗の声が震えている。その唇がまた一つ、残酷に告げた。
「キスも、その先もできない。どんなに好きな人とでも――奈々ちゃんとでも」



